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育て方 — 湿度と乾燥
2026.10.01

ビカクシダは
密閉か、乾燥気味か。
真逆の助言が割れる理由

弱った株に「密閉して湿度を上げろ」と「水苔を減らして乾かせ」の真逆の助言が出るのは、密閉が水の出口を塞ぐ手で、乾かすのが根腐れの入口を塞ぐ手だから。たいていは塞いでいる場所が違うだけ、というのが私の考えです。NHK趣味の園芸『ビカクシダ』の品種図鑑、タイの栽培書『PLATYCERIUM』、トマトの接ぎ木苗の研究を手がかりに整理しました。

結露した透明な衣装ケースの中で少し萎れた板付けのビカクシダ。右に指を差して考えるビカキンちゃん

どうも、ジサクボです。株が弱った時に人に聞くと、「密閉して湿度を上げろ」と「乾かし気味にしろ」という真逆の答えが返ってきます。どちらを取ればいいのか。NHK趣味の園芸『ビカクシダ』とタイの栽培書『PLATYCERIUM』、トマトの接ぎ木苗の研究をたどって、この二つがどう両立するのかを考えました。病気の記事の続きにあたる話です。

  • 株が萎れて、密閉するか乾かすかで手が止まっている人
  • 親株から取ったばかりの子株や、根の少ない小株を育てている人
—
Prologue はじめに

返ってくる答えが割れる

ビカクシダの株が弱ると、人に聞きます。すると、返ってくる答えが割れます。

「衣装ケースに入れて密閉して、湿度を上げたほうがいい」。これはよく言われます。その一方で「古い水苔を減らして、水やりも控えて乾かし気味にしたほうがいい」という人もいます。

弱ったビカクシダを前にして、真逆のことを言われる。どちらを取るか決められないまま、手が止まる。私もずっと、なぜ答えが割れるのか不思議でした。

前に病気の記事を書いていた時に、たぶんこういうことなんだろう、という見当はつきました。今回、本やトマトの接ぎ木の研究を読んでいくうちに、その考えがまとまったので書きます。

密閉は水の出口を塞いでいて、乾かすのは根腐れの入口を塞いでいる。たいていの場合、この二つは矛盾していない、と考えています。株が萎れた時に、原因がどちらの側にあるのかを考える参考にしてもらえたらと思います。


01
Chapter One 空気と水苔

湿度を上げろと水を控えろは、別のことを言っている

本の品種図鑑の、エリシー(P.ellisii)の項にこう書かれています。

多湿に弱く、調子をくずすと葉に黒い斑点が出現する。空中湿度は高めに保ちつつも、水やりは控えめにしてなるべく乾かし気味に管理すると維持しやすい。極端に乾燥させると急激に調子をくずすので注意。

— NHK趣味の園芸『ビカクシダ』品種図鑑より

多湿に弱いと書いておいて、空中湿度は高めに保つ、と続きます。同じ項の中で、湿度を上げろと水を控えろが同居しています。ここでいう多湿は、水苔が濡れていることだと私は読んでいます。最後には、極端に乾燥させると調子をくずす、とも書かれています。乾かすといっても、からからにする話ではなさそうです。

私はこの二つをまとめて「水」として扱っていました。でも空気を湿らせることと、根を濡らすことは別の行為です。空気が湿っていても水苔は乾いていられるし、空気が乾いていても水苔はびしょ濡れでいられます。

割れて見えた助言は、片方が空気の湿り気の話で、もう片方が水苔の濡れ具合の話だったのだと思います。

ただ、密閉すると、空気と一緒に水苔も乾きにくくなります。ここだけは、二つを切り離せません。


02
Chapter Two 出口

密閉すると、葉から水が逃げにくくなる

葉からは水が逃げていきます。蒸散(じょうさん)と呼ばれるものです。空気が乾いているほど、逃げる量は多くなります。

葉が大きいため、乾燥した場所で管理すると葉の蒸散量が多くなり、胞子葉や貯水葉の先端が萎縮したりするので注意。

— NHK趣味の園芸『ビカクシダ』品種図鑑、アンゴレンセ(P.elephantotis)の項より

一方で、根が少ない株は吸える量が少ない。小株や、親株から取ったばかりの子株がそうです。

出ていく量が、入ってくる量を超える。こうなると株は萎れます。

似た状況を、トマトの接ぎ木で調べた研究がありました。接いだばかりの上側は、まだ下から水をもらえません。その状態のものと、水を吸える状態にしたものを並べて比べています。

水を吸える側は、空気が乾いて蒸散が増えても萎れませんでした。吸えない側は、蒸散を止めきれずに萎れています。

そして、苗のまわりの湿度を高めて蒸散を抑えることは、萎れを防ぐうえで「きわめて有効な方法」だとまとめられていました(信岡尚・小田雅行・佐々木英和 1996、園芸学会雑誌 64(4): 859-865)。

密閉して湿度を上げるのは、この水の出口を塞ぐためだと私は考えています。本にも、根を傷めた子株への手当てとして書かれています。

根を切って傷めているので、子株を苗として育てるときは、古い葉を切って葉数を減らして蒸散を抑え、根の負担を減らす。 小さい苗は密閉容器に入れ、湿度を高めると蒸散が抑えられ、簡単に管理できる。

— NHK趣味の園芸『ビカクシダ』p.75(子株とりの手順より)

葉を減らすのと、密閉して湿度を上げるのが、並んで書かれています。葉の枚数が減れば、出口そのものが減ります。密閉のほうは、空気を湿らせて出ていきにくくする。やり方は違っても、どちらも水の出口を塞ぐ手だと読めます。

タイの本にある Wanida Burin さんの方法も、根の不調や環境の変化で弱った株を水苔で植え直し、密閉して、根が強くなるのを待つものです。

Burin shared a tip on rescuing a weakened fern, which can be caused by root issues or environmental changes. She replanted it with sphagnum moss and put it in a closed container to control humidity, keeping it in a cool and shaded spot. Once the roots have strengthened, the fern will produce new fronds.

(弱った株を助ける方法。原因は根の不調や環境の変化。水苔で植え直してから密閉容器に入れて湿度を管理し、涼しい日陰に置く。根が強くなれば新しい葉を出す)

— Patra Sangdanuch『PLATYCERIUM』p.172、Wanida Burin さんの方法

この方法には「涼しい日陰に置く」も入っています。さきほどのトマトの研究にも、こう書かれていました。

接ぎ木苗の養生環境を高い相対湿度に保った場合でも、強光が当たると苗の萎凋を防止できない

— 信岡尚・小田雅行・佐々木英和(1996)園芸学会雑誌 64(4)

理由も書かれていました。光には熱が含まれているので、当たると葉の温度が上がる。湿度を高くした中でも、光が強いほど蒸散が多くなっていました。湿度を上げて出口を塞いでも、光が強ければまた水が出ていく。密閉するなら、光も落としておいたほうがよさそうです。

萎れる仕組み①。根が少ないところに、葉から出る水が増えて萎れる図 萎れる仕組み①。根が少なくて吸える水が少ないところに、空気の乾きや強い光で葉から出る水が増えると、出ていく水が入ってくる水を上回って萎れる

私が密閉でやるのも、小株や、まだ根が短い株です。


03
Chapter Three 入口

乾かすと、根腐れが起きにくくなる(私の見立て)

水苔が濡れたままだと根が酸欠で弱り、そこに病原菌が入る。病気の記事では、根腐れをそう読みました。

濡れた条件で病原菌が根に入り、根腐れが起きることは、花や作物の病害の資料に書かれています。ビカクシダの水苔の中で起きる根腐れも同じだ、というのが私の見立てです。そうだとすれば、素早く乾く環境は発病を防ぎやすくなるはずです。

乾かすのが効きそうなのは、根は少なくないのに萎れる、根腐れが疑われる株です。全部の株を乾かす必要はない、というのは病気の記事に書いたとおりです。

萎れる仕組み②(私の見立て)。濡れた水苔で根が弱り、菌が入って根が腐り萎れるという流れの図 萎れる仕組み②。水苔が濡れたままだと根が弱り、そこに菌が入って根が腐り、水を吸えなくなって萎れる流れ

providing a well-ventilated environment that allows quick water evaporation and prevents the development of fungal and bacterial diseases is essential

(風通しがよく、水がすばやく乾く環境が、カビや細菌の発病を防ぐ)

— Patra Sangdanuch『PLATYCERIUM』p.190
アイリスオーヤマ サーキュレーター WOOZOO 360 barrel PCF-CD15TECA-W

アイリスオーヤマ サーキュレーター WOOZOO 360 barrel

私がビカクシダの風通しに使っているサーキュレーターです。DCモーターで、上下90°・左右360°に首振りできます。型番は PCF-CD15TECA-W。

根が腐ってしまったら、二つがぶつかる

図②の最後は「水を吸えなくなる」です。これは図①の「吸える水が少ない」と同じところに行き着きます。根が腐った株は、根が少ない株でもあります。

ここで二つの手がぶつかります。根が少ないなら密閉したい。でも密閉した容器の中では水苔が乾きにくく、根腐れの入口がまた開いてしまうおそれがあります。

一方で、2章の Wanida Burin さんは、根の不調で弱った株も、植え直してから密閉しています。植え直して古い水苔を落とすところまでは同じで、違うのはそのあとです。

私の株では、乾かし気味にして持ち直した例が一つあります。病気の記事で、水切れしていないのに胞子葉が萎れた株として載せた P.willinckii OMG です。乾かし気味に育てていたら持ち直して、成長点から新しい貯水葉が出てきました。

持ち直した P.willinckii OMG。成長点から新しい貯水葉が出てきている 持ち直した P.willinckii OMG。成長点から新しい貯水葉が出てきた

ただ、根腐れだったのかは確かめていませんし、一株だけの話です。病気の記事にも書いた、萎れた株が持ち直したという人づての話も、古い水苔を落として新しい水苔を薄く巻き直し、乾かし気味に管理した、というものでした。乾かす側の裏づけになりそうなのが、カリフォルニア大学の病害の資料にある、根腐れを起こす病原菌のひとつ、ピシウムについての一文です。

As the soil dries, new roots may be produced and the plant may recover or never show symptoms of disease.

(土が乾いてくると新しい根が出て、株が回復するか、症状が出ないまま済むこともある)

— カリフォルニア大学 UC IPM「Pythium Root Rot」(花き類の栽培向け資料)

乾かす側の材料は、今のところこれだけです。タイの本は密閉していて、どちらがいいのかは、私にはまだ分かりません。

ジャパン蘭土 ニュージーランド産圧縮ミズゴケ 150g

ジャパン蘭土 ニュージーランド産圧縮ミズゴケ 150g

ニュージーランド産の水苔です。繊維が長く、保水性と通気性のバランスが良いので、ビカクシダの板付けに使っています。


04
Chapter Four 結び

まとめ

萎れる原因のうち、この記事で見てきたのは二通りです。根が少ないのに葉から出ていく水が多いか(図①)。濡れた水苔で根が弱り、病原菌が入って根が腐ったか(図②)。

根が少ない株なら密閉で水の出口を、根は少なくないのに萎れる株なら根腐れを疑って乾かし気味にし、入口を塞ぐ、というのが私の考えです。根が腐ってしまった株では二つがぶつかり、どちらがいいのかは、私にはまだ分かりません。病気による萎れかどうかは、病気の記事の「株が萎れたら、見るところ」で先に確かめられます。

真逆に見えた二つの助言は、たいていは塞いでいる場所が違うだけで、ぶつかるのは根が腐った時なのだと思います。


05
Chapter Five 出典

参考文献・出典

本文で「本」「研究」と書いたものは、以下です。

  • NHK趣味の園芸『ビカクシダ』(品種図鑑のエリシー・アンゴレンセの項、p.75 子株とりの手順)
  • Patra Sangdanuch『PLATYCERIUM』p.172(Wanida Burin さんの方法)、p.190
  • University of California, UC IPM「Pythium Root Rot」Floriculture and Ornamental Nurseries(ipm.ucanr.edu)
  • 信岡尚・小田雅行・佐々木英和(1996)園芸学会雑誌 64(4): 859-865(トマトの接ぎ木苗で、萎れと湿度・光の関係を調べた研究)