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ビカクシダの歴史 — 第4弾「進化編」
2026.08.12

ビカクシダで一番遠い
組み合わせはどれか

リドレイとウィリンキーは、掛け合わせるのが無理そうに見えます。ところがDNAで並べ直すと、一番遠い組み合わせはこの2種ではありませんでした。似て見えるほうが遠かったんです。18種の家系図をたどります。

P.ridleyi と P.willinckii を並べた写真

どうも、ジサクボです。これは「ビカクシダの歴史」シリーズの 第4弾「進化編」 です。前3弾を読んでいなくても単独で読めるように書きました。ここまでの3本は全部が人間側の歴史でしたが、今回は視点を植物側に移します。

01
Chapter One 序論

リドレイとウィリンキーが、一番遠いと思っていた

P.ridleyi(リドレイ)と P.willinckii(ウィリンキー)。この2つを掛け合わせるのは無理っぽいな、となんとなく思っていました。

P.ridleyi と P.willinckii を並べた写真 上が P.ridleyi(リドレイ)、下が P.willinckii(ウィリンキー)。うちで並べて撮ったものです

貯水葉は片方が球、片方は上に開く。胞子葉も、片方は鹿の角のように上に展開する、片方は垂れて長い。産地も違う。ビカクシダの中で一番遠い組み合わせを挙げろと言われたら、私はこの2つを挙げていたと思います。

姿の落差で距離を測っていたわけです。それがDNAの上でどうなっているのかを、系統の論文で確かめてみました。

結論から書くと、外れました。 この2種より遠い組み合わせが、ちゃんとあったんです。しかもそれは、私が「近いだろうな」と思っていたほうの組み合わせでした。


02
Chapter Two 系統

ビカクシダ18種は、3つのグループに分かれる

ビカクシダは、いま18種が認められています。趣味の世界で流通している名前は数え切れないほどありますが、種として立っている柱は18本だけです。マウントルイスがこの18種に入らない理由は、別記事で書きます。

その18種の葉緑体の遺伝子を並べて系統樹を描いた論文が、2024年に出ています。中国のグループが18種すべてを新しく解析したもので、結果は大きく3つのグループでした。論文の呼び方(AA・JA・MA)だと味気ないので、中身で書きます。

ビカクシダ18種の家系図 ビカクシダ18種の家系図。この記事に出てくる図は、すべてこの木の一部を拡大したものです

この記事の図は、全部この1枚から出てきます。 6章も9章も、この木の一部を拡大しているだけなので、迷ったらここに戻ってきてください。

リドレイはコロナリウム組、ウィリンキーはビフルカツム組。別のグループでした。

ここで、系統樹には見方が2つあることに気づきました。「どっちが先に分かれたか」という順番と、「分かれてからどれだけ経ったか」という隔たりです。私はこの2つを、ずっと同じものだと思っていました。

まず順番。 3つのグループは、最初にアフリカ組が分かれて、残りがあとからビフルカツム組とコロナリウム組に分かれています。だからリドレイとウィリンキーは、順番でいえば近いほうです。

次に隔たり。ここで話が変わります。

組み合わせ 分かれた時期
リドレイ × ウィリンキー 2,280万年前
一番離れた組み合わせ 2,630万年前

その差、350万年。 属の歴史がぜんぶで2,630万年ですから、1割ちょっとしかありません。

人類の祖先がチンパンジーと分かれたのは、推定に幅があって500万〜1,300万年前です。つまり「近いほう」と言われたリドレイとウィリンキーのほうが、人類とチンパンジーよりはるかに大昔に分かれている。

ビカクシダの中では、どの組み合わせを取っても、似たような大昔に分かれています。 順番に前後はあっても、隔たりでいえばどんぐりの背比べでした。

例外が一つだけあります。同じ枝の先に並んでいるペアです。たとえば P.coronarium と P.ridleyi。ここは分岐がぐっと新しくて、本当に近い間柄です。あれだけ姿が違うのに。

なお、この 2,630万年前という数字は、論文によって割れています。 8章で書きます。


03
Chapter Three 方法

なぜ、そんな昔のことが分かるのか

化石が出てきたわけではありません。使っているのは、いま生きている株のDNAです。

DNAの文字は、時間とともに少しずつ書き換わっていきます。だから2つの種を並べて文字の違いを数えると、どれくらい前に分かれたかの見当がつく。今回の論文は、葉緑体にある88個の遺伝子でこれをやっています。

ただ、違いの数だけでは「何年前」までは出ません。そこで、年代の分かっている出来事を何か所かで「ものさし」として当てて、全体の時間軸を決めます。この論文では4か所。

逆に言うと、ものさしが変われば、年代も動きます。 8章で2本の論文が違う数字を出しているのも、理由の一つはそこです。しかもシダは化石があまり残らないので、ものさしを増やしにくい。

この方法では、見えないものがある

もう一つ、大きな限界があります。

いま生きている株のDNAから描くので、この系統樹には「いま生きている18種」しか出てきません。 途中で枝分かれして、そのまま絶滅していった系統があったとしても、一本も写りません。

なので正確に言うと、分かるのは「ビカクシダが18種に分かれた」ではありません。「いま残っている18種が、いつ枝分かれしたか」 です。もっとたくさんの系統が生まれては消えていた可能性を、この方法は否定も肯定もできません。

そして、それを確かめる手立てがほぼありません。シダは化石がほとんど残らないからです。絶滅した系統をのぞく窓が、そもそもありません。

この記事に出てくる年代も図も、全部この前提の上に乗っています。


04
Chapter Four 距離

本当に遠いのは、アフリカ組とそれ以外

3つのグループのうち、ビフルカツム組とコロナリウム組が枝分かれの順では隣どうし。ということは、残るアフリカ組が、一番外側にいます。

系統樹を根元からたどると、まずアフリカ組とそれ以外が分かれて、そのあとにビフルカツム組とコロナリウム組が分かれた、という順番です。

つまり、一番深いところで分かれているのは、アフリカ組の種と、それ以外の種の組み合わせです。たとえば P.stemaria(アフリカ組)と P.superbum(コロナリウム組)。あるいは P.elephantotis(アフリカ組)と P.willinckii(ビフルカツム組)。

ここで、姿のほうを見てみます。

P.ridleyi と P.madagascariense。 どちらも貯水葉がキャベツのように球状に近い形で株全体を覆っていて、ウィリンキーのように上へハの字に開くタイプではありません。

P.ridleyi P.ridleyi

P.madagascariense P.madagascariense

並べて見ていると、近い仲間なんだろうなと思っていました。

もう一組あります。P.willinckii と P.andinum。

P.willinckii P.willinckii。うちの株です

P.andinum P.andinum ── ペルー・サンマルティン州。木の幹に着生している状態。撮影 Martin Vallejos 氏(iNaturalist、CC BY 4.0)

上に立ち上がる貯水葉と、長く垂れる胞子葉。 アンディナムはうちにいないので自生地の写真を借りましたが、輪郭はほとんど同じです。

ところが系統樹の上では、どちらの組み合わせも、根元までさかのぼらないとつながりません。 ビカクシダの中で一番離れた間柄でした。リドレイはコロナリウム組でマダガスカリエンセはアフリカ組、ウィリンキーはビフルカツム組でアンディナムはアフリカ組。似て見える2つが、一番遠かったわけです。

ちなみに、アフリカ組とそれ以外の組み合わせは、どれも同じところまでさかのぼります。 この2組が特別に遠いのではなく、アフリカ組との間に、一番深い谷があるということです。

1章の問いに、これで答えが出ました。一番遠い組み合わせは、リドレイとウィリンキーではありません。 リドレイとマダガスカリエンセ、あるいはウィリンキーとアンディナムのような、似て見えるほうの組み合わせでした。

見た目で測った距離は、系統樹の距離とは別物だった。 ここが今回一番引っかかったところでした。

なお、アフリカ組の中はさらに、マダガスカル周辺の4種(P.alcicorne、P.ellisii、P.madagascariense、P.quadridichotomum)と、アフリカ大陸の2種(P.elephantotis、P.stemaria)に分かれています。前者を「マダガスカルの系統」と呼ぶ論文もありますが、これは系統の名前であって産地そのものではありません。P.alcicorne は東アフリカの沿岸やコモロ諸島にも自生しています。残る1種は、アフリカにいません。南米の P.andinum です。この1種だけ話が別なので、8章で書きます。


05
Chapter Five 時代

その時代、地球はどうだったのか

数字だけ見てもピンと来ないので、当時の地球がどうだったのかを並べてみます。

ビカクシダ属が独立したころ|暑い世界が、終わろうとしていた

約3,520万年前。 このころの地球は、いまとは比べものにならないくらい暑かった時代の、終わりかけです。始新世で一番暑かった時期(約5,330万〜4,910万年前)は、地球全体の年平均気温が約27℃(幅をとると23〜30℃)と見積もられています。

そこに、転換点が来ます。3,390万年前。二酸化炭素が減っていったことで気温が下がり、南極に「一年中溶けずに残る氷」ができ始めたのがこの時期です。それまでの暖かい時代を通じて、南極にそういう氷床は無かったとされています(一時的な氷ならあったかもしれない、という指摘はあります)。

冷え方は穏やかではありません。北アメリカ中央部では、40万年ほどのあいだに年平均気温が約8℃下がったという見積もりがあります。ヨーロッパでは多くの動物が入れ替わり、これを「Grande Coupure(大断絶)」と呼ぶそうです。

着生シダにとって、より効いたのはたぶん気温より乾燥のほうです。 同じ時期、中国南部の盆地の地層から、低緯度のアジアが乾燥に向かったことをうかがわせる記録が出ています。木の上に張り付いて暮らす植物にとって、空気が乾くのは死活問題です。

ビカクシダ属が親戚と別れたのは、その少し前でした。

種に分かれ始めたころ|また暖かくなった

約2,630万年前。 今度は逆に、暖かさが戻ってきた時期です。論文が挙げている「後期漸新世温暖期」は2,780万〜2,450万年前で、ビカクシダが種に分かれ始めた年代は、ちょうどこの中に入ります。

その後、1,700万〜1,470万年前が、中新世で一番暖かい時期でした。この時期の地球の年平均気温は約18.4℃、いまより3℃ほど高かったと見積もられています。南極でも、1,570万年前ごろの短いあいだ、陸上の夏(1月)の平均気温が10℃に達したという掘削記録が出ています。

二酸化炭素の濃度は300〜500ppmという推定があります。この幅、いまの地球(400ppm台)がすっぽり入ります。 1,500万年前の空気と、いま私たちが吸っている空気は、二酸化炭素の濃さでいえば近いところにあります。

そして1,400万年前ごろから、また冷えていきます。北大西洋の中緯度では海面水温が約6℃下がったという見積もりがあります(高緯度側は2℃ほどでした)。

系統の論文は、この「暖かくなった時期」と「そのあと冷えた時期」の両方が、ビカクシダの種分化を後押しした可能性があると書いていました。

理由も添えられていて、着生シダは地面に生えるシダより気候変動の影響を受けやすいとのことでした。木の上にいると、気温にも乾燥にも直接さらされるからです。

みんなが知っている顔ぶれは、まだ誰も来ていない

ここまでの年代を、誰でも名前を知っている生きものと並べてみると、時間の遠さが見えてきます。

ビカクシダの年代と、有名な生きものが現れた時期の年表 ビカクシダの年代は Xue ほか 2024。生きものと氷河時代の年代は巻末の参考文献による

ビカクシダが3グループに分かれ終わった2,280万年前の時点で、マンモスもサーベルタイガーも人類も、まだ1匹もいません。

顔ぶれ 登場
マンモス 約600万年前から
人類(ホモ属) 280万年前から
氷河時代 258万年前から
サーベルタイガー(スミロドン) 250万年前から
ホモ・サピエンス 30万年前から

そこから1,600万年以上あとに、ようやくマンモスがアフリカに出てきます。人類の祖先がチンパンジーと分かれるのは、推定に幅があって500万〜1,300万年前あたり。私たちホモ・サピエンスに至ってはたった30万年前です。

氷河期も同じです。 いま私たちが暮らしているこの氷河時代が始まったのは約258万年前で、地質学的にはまだ終わっていません。ビカクシダの家系図は、氷河期が始まったころにはもう、ほぼ描き終わっていました。

コロナリウムとリドレイが別々の道を歩き出したのも、南米の1種が大西洋を渡ったのも、全部それより前の出来事でした。

同じ時代にいたのは、メガロドンくらい

逆に、同じ時代にいた有名どころとなると、メガロドンくらいしか見当たりません。2,300万年前から358万年前まで海にいたので、ビカクシダが3グループに分かれてから南米に渡るまで、ずっと重なっています。

陸のほうは、名前を聞いてもピンと来ない動物ばかりでした。

パラケラテリウム(想像図・1920年代の絵) パラケラテリウム(想像図・1920年代の絵)── 角のないサイの仲間で、史上最大級の陸生哺乳類とされています。木に首を伸ばしている構図なので、大きさの見当がつきます(Wikimedia Commons、パブリックドメイン)

こういう「知らない動物」が歩いているあいだ、ビカクシダの祖先はずっと木の上にいました。 絵の中の、あの木の上です。


06
Chapter Six 子株

一番近い2種なのに、片方だけ子株を出さない

ここまでは「姿」の話でした。今度は増え方を見てみます。

P.ridleyi は子株を出しません。 増やすなら胞子から、というのが趣味家の共通認識だと思います。

P.coronarium P.coronarium。うちには4株あります

では P.coronarium はどうか。いまのところ、どれも出していません。 ただ、自生地の姿を見ると、うちの株とはまるで別物です。

マレーシアの自生地で群生する P.coronarium マレーシア・サバ州セピロクの P.coronarium。1本の枝の上で、扇形の頭がいくつも左右に並んでいます(撮影 desertnaturalist 氏、iNaturalist、CC BY 4.0

頭がいくつも並んで、阿修羅のような姿になっている。これは子株が育って群れになったものです。うちの鉢を見ているかぎり、こうなる気配はまったくありません。

系統樹では同じ枝の先に並んでいる2種です。それなのに、増え方の話になると様子が違う。

子株を出すのが元の姿。失ったのは、リドレイのほうだった

2025年に、この「子株を出すかどうか」を18種ぜんぶで調べた論文が出ています。いまの18種がどうなっているかを系統樹の上に並べて、そこから逆算して祖先がどちらだったかを推定する、という方法です。

そこでは、リドレイは「子株を出す性質を失った側」、コロナリウムは「祖先のまま残している側」 に分けられていました。

結論はこうです。現存するビカクシダすべての祖先は、たぶん子株を出して群れを作る型だった。

「たぶん」と書いたのは、論文が言い切らずに確率で答えを出しているからです。群れを作る型だった確率は 0.77。

この数字が強いのか弱いのか、それだけ見ても分かりません。物差しは同じ論文の中にありました。

同じやり方で、別の性質についても計算されています。「貯水葉と胞子葉に分かれているのは、祖先から受け継いだものか」── こちらの答えは 0.96以上でした(論文の本文は「0.99以上」と書いていますが、巻末の表では属の根元のところが 0.96 になっています)。

0.96 と 0.77。 同じ論文の中で、前者は「まず間違いなく祖先の形」、後者は「たぶんそうだった」と書き分けられています。0.77 は、言い切れる数字ではありません。

なので以下は、いまのところ一番ありそうな筋、という受け取り方でお願いします。

コロナリウムが特別なのではなく、コロナリウムのほうが元のまま。 リドレイがあとから捨てた側でした。

出さないのは6種。でも、失われたのは2回だけ

では、いま誰が出して誰が出さないのか。2章の表と重ねます。

子株を出さない(失った・6種) P.ridleyi/P.wallichii、P.superbum、P.wandae、P.grande、P.holttumii
子株を出す(祖先のまま・12種) P.coronarium、P.bifurcatum、P.willinckii、P.veitchii、P.hillii、P.alcicorne、P.ellisii、P.madagascariense、P.quadridichotomum、P.elephantotis、P.stemaria、P.andinum

失った6種は、全部コロナリウム組でした。つまりコロナリウム組7種のうち、子株を出すのは P.coronarium ただ1種。ビフルカツム組とアフリカ組のほうは、11種すべてが祖先の型を保っています。性質を失ったのは、系統樹のこの一角だけでした。

さて、失った種は6種。ところが論文は「失われたのは2回」と書いています。 数が合いません。枝のどこで失われたかを見ると、はっきりします。

子株を出す性質が2回失われたことを示す系統図 図1のコロナリウム組(7種)を拡大したもの。子株を出す性質が失われたのは、赤い✕の2か所

1回目は、P.ridleyi の枝。コロナリウムと分かれたあと、リドレイの側だけが失いました。

2回目は、残り5種の共通の祖先の枝ここで1回失われてから5種に分かれたので、5種とも生まれつき出しません。

種の数で見れば6種。でも失われた出来事としては、2回。進化の出来事は、種の数ではなく枝の数で数えます。

コロナリウムだけ、子株の出し方が違う

論文に、ひとつ引っかかる記述がありました。

ほかの種が根から子株を出すのに対して、コロナリウムは根茎の枝から出す。論文はこれを「唯一の例外」と書いています。

同じ「出す側」に分類されていても、出るしくみは違います。

なぜ捨てたのか|安定した環境では、群れる意味が薄い

理由についても書かれていました。

群れて暮らすことや役割を分けることは、厳しくて先の読めない環境でよく見られる——これはもともと動物で言われてきた話で、論文はそれをシダに当てはめる形で議論を進めています。

そのうえで、子株を捨てた種が住んでいるのは年間を通して気温が安定していて、雨がよく降る熱帯だ、と書かれていました。そういう環境では群れる利点がなくなったのではないか、というのが論文の見立てです。

もう一つ、暖かく湿った環境では葉が大きくなれる、という話も添えられていました。大きな貯水葉を作れるなら、単独でも落ち葉と雨を受け止められる。 群れなら全員で作る「巣」を、1個体で肩代わりできます。

実際に、そういう相関が報告されています。子株を出す性質は貯水葉の長さ・幅と負の相関があり、胞子葉の長さとは無関係でした。貯水葉が大きい種ほど、単独で生きている。 ただし論文は、どちらが原因かは決めていません。「大きな貯水葉が単独化を促したのか、その逆か、どちらとも取れる」と書いてあります。そのうえで、群れなら共同で作る「巣」が無い分を1枚で補っている、という読み方は示されていました。

ただ、ひとつ引っかかっています。論文は「子株を捨てた種はどれも熱帯インドシナに限られる」と書いているのですが、ところが6種のうち、インドシナに収まるのは P.holttumii と P.wallichii の2種だけです。P.grande はフィリピン、P.superbum はオーストラリア、P.wandae はニューギニア。7章の分布と合いません。ここは私には腑に落ちていません。


07
Chapter Seven 分布

ビカクシダ18種はどこに住んでいるか

18種がどこに住んでいるかを地図にすると、こうなります。

ビカクシダ18種の世界分布地図 丸の色が系統のグループ、位置がおおまかな産地。数字は種数

熱帯アフリカに6種、東南アジアからオーストラリア周辺に11種、そして南米に1種。東南アジアからオーストラリア周辺に半分以上が集中しています。 私たちが普段よく育てている品種の多くがこの地域の出身なのは、そもそも種の数がここに偏っているからなのかもしれません。

ただし、グループと地域はきれいには一致しません。 地図を見ると、東南アジアにもオーストラリア周辺にも、ビフルカツム組とコロナリウム組が混ざって住んでいます。たとえばオーストラリア産の P.superbum はコロナリウム組、インドネシア産の P.willinckii はビフルカツム組。近所どうしが親戚とは限らないわけです。

「熱帯の植物」というイメージのほうが、ずれていた

地図をもう一つの向きで見ると、別のことが分かります。南北です。

論文はビカクシダ属を pantropical(汎熱帯) と呼んでいます。世界中の熱帯にいる、という意味です。私も「熱帯の植物」だと思っていました。ところが端を調べると、熱帯からはみ出しています。

北の端は、中国です。 雲南省の盈江(インジャン)── ミャンマーとの国境に、P.wallichii が自生しています。北緯 24.7度。北回帰線の外側です。しかも中国では国家保護植物に指定されていて、野生の個体群はほぼ絶滅しかけていると『Flora of China』に書かれています。

南の端は、もっと遠い。 P.bifurcatum が、オーストラリアのニューサウスウェールズ州ミモザロックス国立公園まで下っています。南緯 36.6度南回帰線より13度も南で、直線で1,400kmくらい外です。

この場所の気候は、区分でいえば温帯です。ただし最も寒い月の平均気温が約10℃なので、日本の感覚では九州南部の海沿いの冬に近い。寒くはないけれど、「熱帯の帯」からは完全に外れています。

もっと言うと、霜が降りる場所にもいます。 P.veitchii が自生する内陸クイーンズランドの谷では、年に5〜10日ほど氷点下が記録されています(オーストラリア州政府の気象データ、1994〜2023年の30年分)。

ただし、この気温は地上1.2メートルの百葉箱の値です。着生シダは木の高いところにいるので、放射冷却による霜の直撃は地面より弱いはずです。「氷点下に耐えている」とまでは言えません。 言えるのは「冬に霜が降りる気候帯に、自生している」ところまでです。

いない場所も、はっきりしています。日本・ヨーロッパ・北アメリカには自生がありません。 標本の記録を当たると、日本にあるものは京都大学の植物園などの栽培株ばかり。北アメリカのフロリダにあるものは逃げ出して野生化したものでした。

では、なぜ南緯36.6度で止まっているのか。調べてみて驚いたのですが、ビカクシダの耐寒性を実際に測った研究は、まだ1本もありません。 学名に Platycerium が入る論文を全部あたっても、低温を扱ったものはゼロでした。そもそも着生植物が高緯度に少ない理由自体、「水不足か、寒さか」で100年以上決着していないそうです(Zotz 2005 のレビュー)。ここは、誰も答えを持っていない場所でした。 分からないことは、分からないままにしておきます。


08
Chapter Eight 起源

どこから来て、どう広がったのか

ここまでは、いまどこに住んでいるかという話でした。次はそもそも、どうやってそこへ行ったのかです。手がかりになるのは、一番遠くに1種だけいる、あの株でした。

南米にたった1種、P.andinum

アメリカ大陸で唯一のビカクシダが P.andinum。名前のとおりアンデス山脈の種で、学名の登録簿にある分布はペルーとボリビアです。

面白いのは、この1種が系統樹のどこに入っているかでした。南米にいるのに、アフリカ組の中にいます。しかも同じアフリカ組でも、マダガスカルの4種の側ではなく、アフリカ大陸の P.elephantotis と P.stemaria の側に近い。分かれたのは約1,060万年前で、論文はこれを「中新世後期に熱帯アフリカから新熱帯区へ渡った」と書いています。

胞子は軽いので、風や気流に乗って途方もない距離を運ばれることがあると言われています。18種のうち17種が旧世界(アフリカからアジア、オーストラリア周辺)にいて、1種だけが向こう側にいる。しかもその1種の親戚がアフリカ大陸にいる。大西洋を渡ったのは、たぶん1回きりだったのだと思います。

大陸が割れて、乗っていったわけではない

ここで一つ、私が最初に考えたことを書いておきます。大陸が割れて離れていったから、乗っていた植物も一緒に離れたのではないか。 つまりパンゲアの分裂みたいな話ではないか、と。

これが全然違いました。 年代が合いません。アフリカと南米が離れたのは1億年以上前で、P.andinum がアフリカ勢と分かれたのは1,060万年前。9,000万年ずれています。

論文も、この属の分布は大陸の移動では説明できないとはっきり書いていました。大陸に乗って運ばれたのではなく、とっくに離れきったあとの海を、胞子が飛んで渡った。そういう話です。

第3弾「名前編」でこの長距離分散説に一行だけ触れていたのですが、系統樹の側から見ると、思っていたよりはっきりした話でした。

では、最初はどこにいたのか

アフリカ組が系統樹の外側にいて、南米の1種もそこから出ている。それならアフリカ生まれだろう、という話になりそうです。

手がかりがもう一つあります。ビカクシダ属に一番近い親戚の属が、アフリカ大陸の固有属でした。

Hovenkampia(ホベンカンピア)という属で、立てられたのは2017年。もとは Pyrrosia(ヒトツバの仲間)に入れられていたアフリカの3種が、遺伝子を調べたら別グループだったので独立した、という経緯です。ビカクシダと分かれたのが約3,520万年前で、ヒトツバはその次に近い位置になります。

Hovenkampia africana の自生地写真 Hovenkampia africana(旧 Pyrrosia africana)── 南アフリカ・東ケープ州、木の幹に着生している状態。撮影 frogglet 氏(iNaturalist、CC0)

見た目は、正直ビカクシダにはあまり似ていません。細長い単葉が幹から出ているだけの、シンプルなシダです。貯水葉も胞子葉もありません。それでも遺伝子の上では、ヒトツバよりビカクシダに近い側にいます。

ひとつ、書いておかないといけないことがあります。この写真は「ビカクシダの祖先の姿」ではありません。

写っているのは、いま生きているホベンカンピアです。3,520万年前に枝が分かれてから、ビカクシダ側もホベンカンピア側も、同じだけの時間、それぞれに変わり続けてきました。系統樹で隣にいるというのは、いとこが隣にいるという意味であって、いとこは自分の祖先ではありません。

では当時の姿はどうだったのか。分からない、というのが正直なところです。 シダは化石があまり残らないので、起源の論争を扱った論文でも、決着しない理由の1つに「化石の証拠がないこと」を挙げていました。

属名は人名から来ていて、学名の登録簿には「ホベンカンプ教授に敬意を表して」と理由が書いてあります。ビカクシダの周りは、第3弾「名前編」で書いたとおり本当に人の名前だらけです。

ところが、起源は決着していません

一番近い親戚がアフリカにいて、系統樹の根元側にもアフリカ組がいる。それでも、出身地は決まっていません。2024年に、真逆の答えを出した論文が2本出ています。

Xue ほか 2024(1月) Zhao ほか 2024(12月)
出身地 熱帯アフリカ インドシナ
分かれ始めた時期 約2,630万年前 約2,910〜3,280万年前

Xue らの論文はタイトルからして「'Out of Africa' origin」=アフリカ起源です。人類のアフリカ単一起源説をもじった、なかなか強気なタイトル。

一方、そのあとに出た Zhao らはインドシナ起源だと書いています。片方は葉緑体の遺伝子を中心に、もう片方はそこに核の遺伝子も足して解析していて、足したら答えが変わった、という流れのようです。

18種という数も、3つのグループに分かれることも、両方の論文で一致しています。骨格は同じで、根っこの位置だけが割れたまま、というのが現在地です。

素人目に引っかかるのは、一番近い親戚のホベンカンピアがアフリカ固有だという点です。インドシナで生まれたのだとすると、そこはどう説明されるのだろう、と思いました。その答えまでは、たどり着けていません。

アフリカ生まれだとすると、こう広がった

Xue らは、どういう経路で世界に広がったのかも復元しています。海を渡った回数は全部で7回と推定されていて、そのうちはっきりしているのは3回でした。

ビカクシダが世界に広がった経路の地図 3本の矢印が、はっきりしている分散。破線は「何度か往復したかもしれないが、はっきりしない」もの

古い順に、まずアフリカから東南アジアへ。次に東南アジアからオーストラリア周辺へ。最後にアフリカから南米へ渡って、それが P.andinum になった。

どうやって海を渡ったのかについても書かれていました。大陸が動いたからでも、昔の高緯度の森を伝って移動したからでもなく、海を越えた長距離の分散が一番ありそうだ、という結論です。胞子が飛んだ、と考えられています。

アフリカとマダガスカルの間も、地質時代の違う何回かに分けて海を越えたらしい、とありました。

ただしこの経路図は、「アフリカで生まれた」という前提の上に立っています。 出発点がインドシナだとすると、絵は変わります。


09
Chapter Nine 交雑

一番遠い組み合わせは、50年前にもう交雑していた

ここで最初の話に戻ります。属の中で一番遠いのはアフリカ組とそれ以外だ、と4章で書きました。

では、その一番遠い組み合わせは交雑しないのか。

答えは、できます。しかも1975年にもう成立しています。

学名として正式に登録されたビカクシダの交雑種は、1975年から2024年までの約50年で4件しかありません。その4件を、グループ間の距離で並べ直すとこうなります。

学名 親の組み合わせ グループ間
1975 P.×mentelosii P.stemaria × P.superbum アフリカ組 × コロナリウム組(一番遠い)
2019 P.×siamense P.willinckii × P.elephantotis ビフルカツム組 × アフリカ組(一番遠い)
1990 P.×elemaria P.elephantotis × P.stemaria アフリカ組の中
2024 P.×kitshakoodiense P.coronarium × P.ridleyi コロナリウム組の中(一番近い2種)

4件のうち2件が、属の中で一番遠い組み合わせでした。

家系図の上に置き直すと、こうなります。

学名の付いた交雑4件と、系統上の距離を示した図 図1とまったく同じ家系図に、4件の交雑を重ねたもの。赤い梁の2件が、2,630万年前の分かれ目をまたいでいる

赤い梁2本が、アフリカ組とそれ以外を隔てる、一番深い谷を上下にまたいでいます。 灰色の2本は、すぐ隣の枝どうし。遠いほうが先に成立していて、一番近い組み合わせが最後という順番になっているのも、言われてみると不思議です。

P.×mentelosii(1975年)

アフリカ産の P.stemaria と、オーストラリア産の P.superbum の子です。原記載にこう書いてあります。

Mr. Mentelos obtained the hybrid by planting prothalli of the parents in alternate rows (メンテロス氏は、両親の前葉体を交互の列に播くことでこの雑種を得た)

フロリダの Tom Mentelos さんという方が作った株で、名前はそこから来ています。記載したのは Barbara Joe Hoshizaki。道具も情報も今より乏しかった時代に、属の中で一番遠い橋が架かっていました。

P.×siamense(2019年)

タイで作られた、ウィリンキーとエレファントティスの子です。

Of 25 prothallus-pairs, only 1 plantlet was morphologically identified as the interspecific hybrid (25組の前葉体ペアのうち、雑種と確認できたのは1個体だけ

25組やって1個体。遠い組み合わせでも通るけれど、確率は低い、という話に見えます。

なお、雑種かどうかの判定は morphologically identified── 姿かたちで見分けた、と書かれています。DNAで確かめたわけではありません。

残る2件

1990年の P.×elemaria はアフリカ組の中どうし。原記載が「栽培下でできたのか野生で採られたのか、たどってみたが判断できなかった」と正直に書いていて、しかも2種の分布はアフリカ西部から中部でかなり重なり、近くに生えていることもあると付け加えています。野生でできた可能性を残している、ということです。

2024年の P.×kitshakoodiense(キッチャクード)は、コロナリウムとリドレイの子。系統樹では隣どうしの2種なので、4件の中では一番近い組み合わせです。

P.ridleyi と P.coronarium の写真 キッチャクードの親にあたる2種。上が P.ridleyi、下が P.coronarium。

学名が付いていないだけで、谷はとっくに越えられている

正式に登録されたのは、50年で4件。でも趣味の世界には、名前のない交雑種がいくらでもいます。

うちにいた4株を、図6と同じ物差しで並べるとこうなります。

家系図での位置
P.veitchii × P.coronarium ビフルカツム組 × コロナリウム組 2,280万年前の分かれ目をまたぐ
P.willinckii × P.wallichii ビフルカツム組 × コロナリウム組 同じくまたぐ
P.Budsaba P.quadridichotomum × P.madagascariense アフリカ組の中(マダガスカルの4種どうし)
P.Nukul P.veitchii × P.hillii(と聞いています) ビフルカツム組の中

グループをまたぐものが2つ、グループの中どうしが2つ。 登録された4件と、だいたい同じ幅をカバーしています。ただしまたいでいるのは2,280万年前の分かれ目のほうで、一番深い2,630万年の谷ではありません。

P.veitchii × P.coronarium P.veitchii × P.coronarium。胞子葉はベイチー、貯水葉はコロナ

上に立ち上がって細かく分岐しているのがベイチー側、下で丸く広がっているのがコロナリウム側です。2,280万年前に分かれた枝の、両方の特徴が1株に出ています。

P.willinckii × P.wallichii P.willinckii × P.wallichii。ウィリンキーでもワリチーでもない

こちらも同じ組み合わせ(ビフルカツム組 × コロナリウム組)ですが、まったく違う姿になりました。

P.Budsaba P.Budsaba。P.quadridichotomum × P.madagascariense

ブッサバはアフリカ組の中、しかもマダガスカル周辺の4種どうしです。図1でいちばん奥に固まっている、あの一角の中での掛け合わせです。

P.Nukul P.Nukul。P.veitchii × P.hillii だと聞いている株です

ヌクルはビフルカツム組の中。4株のなかでは、一番近い組み合わせです。ただしこの株の親は、譲ってもらったときに聞いた話で、登録簿や文献で確かめられるものではありません。

そして、表に入れたキッチャクードも、うちにいました。

P.×kitshakoodiense P.×kitshakoodiense

流通の場では、こういう掛け合わせは珍しくありません。学名の付いた4件というのは、あくまで「正式に記載されたものの数」であって、成立した交雑の数ではありません。

近いものどうしも、一番遠いものどうしも、どちらも通っている。


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Chapter Ten 交雑の壁

シダは6,000万年離れていても交雑する

もう少し引いた話を1つ。

2015年に、フランスのピレネー山脈で見つかったあるシダの雑種についての論文が出ています。約6,000万年前に分かれた2つの属の間にできた雑種でした。親の2つの属は姿があまりに違うので、少し前まで別の科に入れられていたほどの間柄です。論文はこの距離を「ゾウとマナティー、あるいはヒトとキツネザルが交雑するようなもの」と書いています。

どれくらい桁外れなのか。論文は「植物でも動物でも、記録された中でいちばん深い自然交雑」と書いています。動物のほうは、たとえば北米の淡水魚サンフィッシュだと、野生で雑種になる相手は1,500万年以内に分かれた系統に収まるそうです。花を咲かせる植物も似たようなもので、ある草花では分かれてから500万年で、もう完全に交雑できなくなっていたと報告されています。6,000万年は、その桁の外です。

なぜシダで、こんなことが起きるのか。種と種のあいだには、壁が2枚あります。

1枚目|出会う前の壁

花を咲かせる植物は、親の体の上で受精します。 虫が花粉を運んできて、その花の中で受精する。だから咲く時期・花の形・匂いで、来てほしい相手をふるいにかけられる。親が相手を選べます。

シダには、この1枚目がほとんどありません。胞子をまくと前葉体ができて、受精はその上で起きるからです。つまり親の体を、とっくに離れた場所。親には、もう手が出せません。

ちなみに、ビカクシダで「交配」と言わずに「交雑」と言うのは、これが理由です。受精が前葉体で起こる以上、人が組み合わせを管理できない

9章の2つの交雑が「前葉体を交互の列に播く」「前葉体をペアで置く」で成立したのも、これで説明がつきます。1枚目が無いので、受精の場に同席させてしまえば、選り分けは起きない。

2枚目|出会ったあとの壁

ただし、1枚目が無いだけでは足りません。

出会っても受精しない、受精しても育たない ── これが2枚目です。ふつうは分かれてからの時間が長いほど厚くなり、しかも加速して厚くなると考えられています。6,000万年も経っていれば、とっくに通れなくなっているはずでした。

論文もそこは認めていて、むしろこの2枚目が薄かったことのほうが「異例だ」 と書いています。

そして、なぜ薄いままなのかは分かっていません。 論文が挙げているのは2つの可能性でした。

  • ほかの生きものでは1枚目が先に完成してしまうので、深い雑種がそもそも生まれない。遅い例が見えるのがシダだけ、という見かけ上の話かもしれない
  • シダは前葉体も株も、どちらも独立して生きている体なので、遺伝子のかみ合わせのブレに対して体の作りが頑丈なのかもしれない

論文は「さらに調べる必要がある」で終わっています。1枚目は説明がついて、2枚目は宿題のまま、というのが現在地です。

なお、論文が「同じくらい深い雑種」として挙げている例は、針葉樹・イワヒバの仲間・ほかのシダと、どれも花を持たない植物ばかりでした。例外は1つだけ挙がっていて、ホロホロチョウとニワトリ(分かれたのは3,000万〜7,000万年前)の交雑です。ただしこれも、野生での記録は逸話どまりだと断ってありました。

ただし、これはシダ全般についての話です。 この論文はビカクシダを扱っていませんし、ビカクシダで交雑の可否を体系的に試した研究も見当たりません。「シダではそう言われている」まで、というのが正確なところです。

その上で数字だけ並べておくと、ビカクシダの属内の隔たりは、Xue らの見積もりで約2,630万年、Zhao らの見積もりで約2,910〜3,280万年。どちらで数えても、このシダの記録の6,000万年よりは短い。属の中の距離は、シダとしては大きいほうではなさそうです。


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Chapter Eleven まとめ

まとめ

  • リドレイとウィリンキーは、一番遠い組み合わせではなかった。一番遠いのは、似て見えるほうの組み合わせ(リドレイとマダガスカリエンセ、ウィリンキーとアンディナム)
  • ただし属の中はどんぐりの背比べ。一番遠い組み合わせと、隣り合うグループ同士の差は350万年しかない
  • ビカクシダ18種はアフリカ組7(うち南米1)・ビフルカツム組4・コロナリウム組7。一番深い谷はアフリカ組とそれ以外のあいだ
  • 枝分かれしていたころ、マンモスもサーベルタイガーも人類もまだ来ていない。同じ時代にいた有名どころはメガロドンくらい
  • 子株を出すのが祖先の姿(ただし確率0.77で、言い切れる数字ではない)。失ったのは6種で全部コロナリウム組だが、失われた出来事は2回
  • 「熱帯の植物」は言い過ぎだった。北は中国雲南(北緯24.7度)、南はオーストラリアの南緯36.6度まで自生し、P.veitchii の谷では年に5〜10日、霜が降りる
  • 出身地はまだ決まっていない。2024年に、アフリカ説とインドシナ説が真っ二つに割れたまま
  • 属内で一番遠い組み合わせの交雑は、1975年にもう成立していた。学名の付いた4件のうち2件がそれ
  • シダは約6,000万年離れた属どうしでも交雑する。受精が、親の体を離れた前葉体の上で起きるから。ただしそこまで通る理由は、まだ分かっていない
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Chapter Twelve 出典

参考文献・出典

論文

  • Xue, Huang, Zhao, Wei, Song, Zhang & Yao (2024) "'Out of Africa' origin of the pantropical staghorn fern genus Platycerium (Polypodiaceae) supported by plastid phylogenomics and biogeographical analysis" Annals of Botany 133(5-6): 697–710. DOI: 10.1093/aob/mcae003(PMC11082476)
  • Zhao ほか (2024) "Phylogenomic analyses of the pantropical Platycerium Desv. (Platycerioideae) reveal their complex evolution and historical biogeography" Molecular Phylogenetics and Evolution 201: 108213. DOI: 10.1016/j.ympev.2024.108213
  • Rothfels, Johnson, Hovenkamp, Swofford, Roskam, Fraser-Jenkins, Windham & Pryer (2015) "Natural hybridization between genera that diverged from each other approximately 60 million years ago" The American Naturalist 185(3): 433–442. DOI: 10.1086/679662
  • Hoshizaki (1975) "A Staghorn Fern (Platycerium) Hybrid" American Fern Journal 65(4): 99. DOI: 10.2307/1546341
  • Hoshizaki & Price (1990) "Platycerium Update" American Fern Journal 80(2): 62. DOI: 10.2307/1547319
  • Phuangkaeo & Mangkrasiri (2019) "Platycerium × siamense, a quality staghorn fern hybrid for garden display" Acta Horticulturae 1245: 165–169. DOI: 10.17660/ActaHortic.2019.1245.24
  • Ploy-ratana (2014) "Platycerium × kitshakoodiense, a hybrid of sister Thai fern species" Acta Horticulturae 1025: 75–79. DOI: 10.17660/ActaHortic.2014.1025.11
  • Zhang & Zhou ほか (2017) Hovenkampia の記載 Molecular Phylogenetics and Evolution 114: 288
  • Ciarle, de Bock & Burns (2025) "Evolutionary origins and life-history correlates of coloniality in the epiphytic fern genus Platycerium (Polypodiaceae)" PLOS ONE. DOI: 10.1371/journal.pone.0329099(PMC12316288)
  • Zotz (2005) "Vascular epiphytes in the temperate zones – a review" Plant Ecology 176: 173–183. DOI: 10.1007/s11258-004-0066-5(着生植物が温帯に少ない理由は水不足説と凍結説があり、どちらも未検証。シダは陸生ではかなりの凍結に耐える)

書籍

  • 『NHK趣味の園芸 12か月栽培ナビNEO ビカクシダ』p.52(コラム「交雑と選抜品種について」/「交配」と「交雑」の呼び分け)

古気候・地球史

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  • Warny ほか (2009) Geology 37(10): 955–958. DOI: 10.1130/G30139A.1(南極の夏 10℃)
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  • ICS 国際年代層序表(第四紀の開始=258万年前。現在も継続中の間氷期)
  • 地質時代の区分・メガロドン・サーベルタイガー(スミロドン)の年代は英語版 Wikipedia の各記事による
  • パラケラテリウムの復元画:E. Rungius Fulda 画(Osborn 監修)/Natural History 23(3) 口絵、1923年。Wikimedia Commons(パブリックドメイン)
  • P.coronarium の自生地写真(群生):desertnaturalist 氏(iNaturalist 観察 135202535・マレーシア サバ州セピロク Rainforest Discovery Centre・2022年7月13日・CC BY 4.0
  • P.andinum の自生地写真:Martin Vallejos 氏(iNaturalist 観察 238638699・ペルー サンマルティン州・2024年8月11日・CC BY 4.0)

分布・気候のデータ

  • PlantNET(ニューサウスウェールズ州立植物標本館)Platycerium bifurcatum:「north from Mimosa Rocks N.P.」(自生の南限)
  • Australian Plant Census(APC):P.bifurcatum = Qld, NSW, LHI(自生)/NI は帰化、P.veitchii = Qld、P.hillii = Qld
  • AVH・GBIF の標本記録:P.bifurcatum 南緯36.58度(Bunga Head、NSW631680、1982年/同地域の最古は1880年の MEL 標本)、P.veitchii 南緯25.71度(Auburn River NP)、P.wallichii 北緯24.705度(雲南省那邦、中国科学院植物研究所標本館)
  • Flora of China Vol. 2–3, Polypodiaceae, Platycerium(Zhang Xianchun & Michael G. Gilbert):「one species in China」「the wild population of P. wallichii in Yunnan is almost extinct. It is a nationally protected plant in China.」
  • SILO DataDrill(クイーンズランド州政府、1994〜2023年):自生地の最寒月平均気温・氷点下日数
  • オーストラリア気象局(BOM)観測所平年値

データベース

  • IPNI(国際植物名索引):Hovenkampia の献名と3種、交雑種4件の書誌と親の組み合わせ、P.andinum の分布
  • GBIF:Hovenkampia 3種の分布と画像

作成日: 2026-08-05 カテゴリ: 読み物シリーズ「ビカクシダの歴史」第4弾「進化編」 ステータス: 第7稿(図6点・写真14点。図1・図5・図6は同一の系統樹定義から生成)