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品種の話 — P.'Mt. Lewis'
2026.08.17

マウントルイスの正体
名前はビフルカツム、中身は別物

マウントルイスは19種目なのか、P.bifurcatum の一種なのか。調べたら、この株は名前が3回変わっていました。名前と中身のズレと、うまくいったりいかなかったりした話です。

P.'Mt. Lewis' の株姿。細く切れ込んだ胞子葉が左右に大きく広がっている

どうも、ジサクボです。マウントルイスを持っている人が一度は行き当たる疑問が、「これは結局なんなのか」だと思います。P.bifurcatum の一種なのか、それとも19種目の新しい種なのか。

  • マウントルイスが19種目なのか、P.bifurcatum(ビフルカツム)の一種なのか知らない人
  • マウントルイスを持っていて、うまく育たなくて困っている人
  • マウントルイスを買おうか迷っている人
Prologue はじめに

19種目なのか、ビフルカツムの一種なのか

マウントルイスを持っている人が一度は行き当たる疑問が、「これは結局なんなのか」だと思います。P.bifurcatum の一種なのか、それとも19種目の新しい種なのか。

調べてみたら、この株、名前が3回変わっていました

マウントルイスの名前の変遷をたどった年表。P.'Mt. Lewis' から P.willinckii 'Venose Frond'、P.willinckii var. venosum を経て、2021年に P.bifurcatum の変異に落ち着いた

名前の変遷。1980年ごろの採集から、2021年の結論まで

年表の一番下が答えです。19種目ではありません。

根拠は2021年の American Fern Journal に載った論文です。いまの学名を調べる公式データベース POWO(イギリスのキュー王立植物園が運営)でも、原種は18種のまま。マウントルイスは入っていません。

オーストラリアの山で見つかって、アメリカに渡って、フロリダの栽培家に2回名前を付け替えられて、最後に落ち着いたのがここでした。

ただ、答えが出たあとのほうが、引っかかりました。名前の上では P.bifurcatum です。その P.bifurcatum は、ビカクシダの中でも丈夫なほうという印象があります。でもマウントルイスは、私のところではそう簡単に育ってくれませんでした。

先に書いておくと、私はマウントルイスが得意ではありません。過去に2株を落としています。1株は突然だめになり、もう1株は貯水葉が出なくなりました。その一方で、2年でこの品種の良さが出てくれた株もいました。同じように育てていて、こうなりました。

「P.bifurcatum の変異」の一言で片づく気が、あまりしていません。この記事は、その名前と中身のズレと、うまくいったりいかなかったりした話です。


01
Chapter One 来歴

名前が3回変わるまで

1980年ごろ|山頂近くで見つかる

オーストラリアからアメリカに持ち込んだのは Loran Whitelock という人です。採ったのは1980年ごろ、Mount Lewis の山頂近くでした。

そのときの話が、2021年の論文に残っています。木の高いところに着いていても、このシダの輪郭ははっきりしていたそうです。広がって深く裂けた貯水葉を見て、Whitelock は最初 P.superbum だと思った。 ところが双眼鏡で覗くと、子株が出ているのが見えた。それは P.bifurcatum の仲間の特徴でした。

付いた名前は P.'Mt. Lewis'。見つかった山の名前が、そのままです。

1982年|このころ、P.willinckii は独立した種ではなかった

Platycerium のモノグラフが出ています。属を丸ごと1冊にまとめた、全種カタログのような学術書です。

そこでは P.bifurcatum が3つの亜種に分けられていました。P.bifurcatum そのものと、P.veitchii と、P.willinckii。 いまは種として扱われることが多い顔ぶれが、当時は全部 P.bifurcatum の下に入っていたわけです。

ここを押さえておくと、このあとの話が分かりやすくなります。

1984年から|Hughes が2回、名前を付け替える

フロリダの栽培家 Ralph Hughes が、この株を輸入して観察していました。1984年の時点では、まだ名前を付けていません。このとき彼は、「P.bifurcatum・P.willinckii・P.hillii のいずれとも別に見える」と書いています。

ところが3年後、この株には P.willinckii の名前が付きました。

1987年に 'Venose Frond'、1989年に var. venosum。発表の場はどちらもシダ愛好家団体の会報で、学術誌ではありません。

この2つ、ほとんど同じ言葉に見えます。venose も venosum も「葉脈が目立つ」という意味で、元は同じ語です。変わったのは言葉ではなく、名前の種類のほうでした。

引用符の付いた 'Venose Frond'園芸の名前です。栽培している人が、選抜した株に付けるもの。対して var. venosumvar.変種という意味で、これは学名の一部になります。園芸の呼び名から、学名の側へ移したという付け替えでした。

さきほどの1982年の分類では、P.willinckii は P.bifurcatum の亜種です。だから Hughes の記事のタイトルは「P.bifurcatum ssp. willinckii の新変種」。ウィリンキーの名前を使っていても、話は最初から P.bifurcatum の中で完結していました。

ただし、なぜウィリンキーなのかという根拠は、2ページのその記事のどこにも書かれていません。 3年前に「どれとも別に見える」と書いた本人が、判断を変えています。

2021年|決着がつく

株のどこを見るかで、似ている相手が変わっていました。

貯水葉は P.willinckii そっくり。胞子葉はどれとも似ていない。 ところが根茎の鱗片(成長点のまわりに付いている小さな鱗)は、P.bifurcatum と P.hillii 寄り。最後に葉緑体のDNAを3か所読んだところ、はっきり P.bifurcatum のかたまりに入りました。

そして「なぜウィリンキーなのか」の答えも、ここにありました。貯水葉です。

P.willinckii の貯水葉は、上に長く伸びて深く裂け、前に広がります。マウントルイスのそれと、よく一致する。しかもそういう貯水葉は、P.bifurcatum の仲間の他のどれにも無い。論文は、Hughes がこの株を P.willinckii と取り違えた理由も、この貯水葉だろうとしています。

結論は「P.bifurcatum の変異」。変異というのは、同じ種の中に収まる個体差のことです。亜種でも変種でもありません。名前を付けて区切るほどの違いではなかった、という判断です。

論文はこう締めています。正式な変種名はまだ決まっていない。決まるまでのあいだ、園芸家は少なくともラベルの種名を P. bifurcatum 'Mt. Lewis' に直すことはできる。 名札を書き換えるなら、いまのところこれが正解です。

そして、いま

2024年に、18種すべての葉緑体の遺伝子を並べ直した論文が出ています。そこでも P.bifurcatum・P.hillii・P.veitchii・P.willinckii の4種は、ひとつのまとまりでした(進化編)。戻った先は、別の研究から見ても同じ場所でした。

戻ったのは、分類の話だけではありません。

名前は3回書き換えられました。でも育てている人たちは、ずっと「マウントルイス」と呼んでいます。決着をつけたあの論文でさえ、書き出しは「趣味家や生産者のあいだで Platycerium 'Mount Lewis' の名前で出回っている株」でした。

いま私たちが使っている名前は、一番最初に付いた名前です。


02
Chapter Two 姿

どんなビカクシダなのか

手元の『NHK趣味の園芸 ビカクシダ』には、こう書かれています。

オーストラリアのルイス山で見つかったといわれる個体群とされる。胞子葉は細く切れ込みが深く、新葉の色は薄いが、古葉になると色が濃くなり、幾重にも重なるため、株姿のインパクトが強くなる。

「幾重にも重なるため、株姿のインパクトが強くなる」というのは、育てているとよく分かります。1枚1枚は細いのに、胞子葉の持ちがよくて、古葉が残って重なっていくと密度が出てくる。正面から見たときの存在感が変わってきます。

品種として、ボリュームが出やすい気がしています。

ネームドはほとんど無いのに、姿のバリエーションは豊かな品種だと思っています。ネームドというのは、選抜株に名前が付いているものです。深緑のもの、白っぽく出るもの、葉先がチリチリと縮れるもの。いろいろあります。

白っぽく出るタイプの P.'Mt. Lewis'。銀白色を帯びた胞子葉の先が波打っている 白っぽく出るタイプ。葉先が波打っている

私が持っていた白いタイプは貯水葉の手触りも違っていて、緑のもののようなテカテカした感じではなく、粒子の細かいサラサラした質感をしています。

全体としては、大きくなりすぎない印象です。胞子葉は、P.willinckii と比べるとそんなに長くありません。貯水葉は立派に上へ広がります。 胞子葉がそれほど下垂しないので、株としてはコンパクトに収まります。

P.'Mt. Lewis' の株姿。上に向かって貯水葉が扇のように広がり、その下から胞子葉が横へ伸びて先端が少し垂れている 貯水葉が上へ広がり、胞子葉は横に伸びて先が少し垂れる

ちなみに1987年に一度付いた 'Venose Frond' という名前は「葉脈の目立つ葉」という意味で、胞子葉の太い葉脈が浮き出るところから来ています。確かに胞子葉の裏をみると葉脈がバキバキに浮き出ています。


03
Chapter Three 自生地

どこに住んでいるのか

名前の由来になった Mount Lewis は、オーストラリア・クイーンズランド州北部にある山です。いまは国立公園になっています。

1987年の原記載に、生育地が書かれています。ケアンズとクックタウンの内陸、Mount Lewis・Mount Fraser・Mount Spurgeon の周辺。雨の非常に多い山地に限られていて、多くは標高700〜1000mの熱帯雨林とあります。

ただし、ここは Hughes が歩いて確かめたものではありません。見てきた何人かの人から聞いた話をまとめた、と本人が断っています。

2021年の論文には、もう少し具体的に書かれていました。Whitelock が採ったのは Mount Lewis の山頂近く。山そのものの標高は 1,200m。原記載の「多くは700〜1000m」より上ということになります。場所はケアンズの北西およそ60km。同じような株は、ケアンズを囲む山地のあちこちでも見つかっているそうです。原記載に出てくる3つの山だけではありませんでした。

下は Mount Lewis 国立公園の、標高1000mあたりの森です。

Mount Lewis 国立公園、標高約1000mの熱帯雨林を流れる渓流。木生シダと林床のシダが密生している Mount Lewis 国立公園、標高約1000m(Hugo Innes / CC BY-SA 4.0)

水が流れていて、木生シダが生えていて、林床までシダで埋まっている。「非常に雨の多い山地」という原記載の書き方が、そのまま絵になっています。

原記載には、環境についてもう一つ書かれています。気温も湿度も、季節による差より、一日のなかの差のほうが大きい。

この山に観測所はないので推定値になりますが、生育帯にあたる標高のデータを30年ぶん見ると、確かにそうなっていました。

気温は、一番寒い7月で最低14℃・最高23℃。一番暑い12月で最低20℃・最高30℃。 月ごとの差は8℃ほどですが、一日のなかの上下は平均で9℃。30年のあいだ、0℃を下回った日は一日もありません。

湿度はもっと極端でした。朝はほぼ毎日95%前後まで上がり、昼は50〜60%台まで下がります。 その差が40ポイント近い。季節による差は、その半分もありませんでした。

ここで、名前の上では同じ種にあたる P.bifurcatum と並べてみます。P.bifurcatum はオーストラリア東部を南北に広く分布していて、標本の記録では南緯36度あたりまで分布しています。日本でいえば東京より少し北と同じ緯度で、冬はそれなりに冷え込むはずの場所です(進化編の7章に分布の話を書いています)。

この帯がどこで途切れるのかを、Hughes は1984年にこう書いています。南は寒さで、西は雨の少なさと乾燥で、そして北は「他の種と混ざり合うこと」で区切られる、と。

北の限界だけ、理由が他と違います。寒さでも乾燥でもなく、他の種と見分けがつかなくなること。マウントルイスの3つの山は、その北の端にあります。種の見分けがつかなくなる場所で採れた株が、そのあと名前を3回変えたことになります。

オーストラリアの分布地図。P.bifurcatum は東海岸に沿って南緯15.4度から36.6度まで南北約2,400kmの帯状に自生し、マウントルイスの3つの山はその帯の一番北の端にある

南北の長さでいうと、北海道から沖縄までとだいたい同じくらいです

片方は東海岸を南北に2,400km、片方は山3つぶん。分布の広さがまるで違います。

自生地の話はここまでにして、ここから先は私の部屋(完全室内・LED)での話です。


04
Chapter Four 栽培

栽培難易度と、私の育て方

まず『NHK趣味の園芸 ビカクシダ』に載っている原種18種のデータを、栽培難易度の順に全部並べてみます。マウントルイスも同じ形式で入れました。

品種サイズ耐えられる温度域胞子葉の向き栽培難易度
P.bifurcatum(ビフルカツム)0〜35°C上向き
P.veitchii(ヴィーチー)5〜30°C上向き★★
P.superbum(スーパーバム)5〜33°C下垂★★
P.willinckii(ウィリンキー)10〜33°C下垂★★
P.alcicorne(アルキコルネ)8〜35°C上向き★★
P.'Mt. Lewis'(マウントルイス)10〜33°C中間〜途中下垂★★★
P.hillii(ヒリー)5〜33°C上向き★★★
P.coronarium(コロナリウム)12〜35°C下垂★★★
P.grande(グランデ)12〜33°C下垂★★★
P.wandae(ワンダエ)12〜35°C下垂★★★
P.stemaria(ステマリア)12〜33°C下垂★★★
P.elephantotis(エレファントティス)10〜33°C下垂★★★
P.wallichii(ウォーリッチー)12〜33°C下垂★★★★
P.ridleyi(リドレイ)12〜30°C上向き★★★★
P.holttumii(ホルタミー)12〜33°C下垂(一部上向き)★★★★
P.madagascariense(マダガスカリエンセ)12〜30°Cやや上向き〜中間★★★★★
P.quadridichotomum(クアドリディコトマム)12〜33°C下垂★★★★★
P.ellisii(エリシー)12〜30°Cやや上向き★★★★★
P.andinum(アンディナム)12〜30°C下垂★★★★★

スマホでは「サイズ」と「胞子葉の向き」の列を省いています。パソコンで見ると全部並びます。

マウントルイスは原種ではありません。 この本でも原種のページではなく、後ろの選抜品種のページ(p.46)に載っています。表のマウントルイスの行も、その p.46 の数値です。

P.bifurcatum のような「置いておけば育つ」感じではないけれど、P.quadridichotomum ほど身構える品種でもない。日々の管理でいうと、特別なことは何もしていません。

むしろ手のかからない、優秀な品種だと思っています。貯水葉は勝手に開いてくれるし、胞子葉も誘引しなくて、きれいに左右対称に広がってくれる。 形を作るために何かした記憶がありません。

ただ、それで育った株もあれば、落ちた株もあります。

温度でいうと、マウントルイスは P.willinckii と同じ段で、P.bifurcatum とは違います。同じ名前でも、そこは別物です。

光|下段の5,000〜8,000 lx で足りています

ビカクウォールの下段に、大型の P.willinckii や P.coronarium と並べて置いていました。ここは 5,000〜8,000 lx です。上段は20,000 lx を超えますが、そこには置いていません。

下段で特に問題が出ていないので、そんなに光は要らないのだと思っています。

置き場所を決める時は、ルクスメーターで実際に測ってからにしています。上段と下段で数字がまるで違うので、感覚だけだと外します。

C-Timvasion デジタル照度計

光量を数値で把握できるルクスメーター。置き場所が何ルクスなのかは、測らないと分かりません。

私が実際に使っていて、どちらもおすすめできるライトを2つ。パネルライトの BRIM PANEL A と、スポットライトの BRIM COSMO 22W です。

BRIM PANEL A 45W

広範囲を均一に照らせるパネルライト。ラック全体に光を行き渡らせたい時の土台になる一枚。

BRIM COSMO 22W

広範囲かつ光が強い。値段もそんなに高くないのでコスパもかなり良い。

スポットライトは距離で光量が変わる|上段・中段・下段のルクス設計

水やり|触って決めます

P.willinckii と同じ感覚で大丈夫でした。「夏は週2、冬は週1」みたいな決め方はしていません。頻度はビカクシダ基準です。

水苔の下側を触って、表面が乾いていたら水をやる。株を持ってみて多少重さが残っていても、乾いていたらやります。

水気を感じない重さまで待つと、ドライアウトのリスクが上がります。一度やってしまうと、そのターンの胞子葉と貯水葉が成長不全気味になって、株の調子も落ちます。

特に響くのが貯水葉です。ドライアウトすると貯水葉の成長が止まりやすくて、せっかくの貯水葉ターンを1回無駄にすることになります。マウントルイスは、品種としてそもそも貯水葉の枚数がそんなに出ない印象があります。数が少ないぶん、1回の貯水葉ターンを潰したくない。そういう意味でも、乾かしすぎには気をつけていました。

貯水葉を大きく展開させたい時は、もう少し水を甘めにしています。ドライアウトを避ける前提で、水やりのタイミングを少し早めるイメージです。

ビカクシダの水やり|水苔の下側が乾いたらすぐに与える


05
Chapter Five 所感

育ててみた所感|同じルイスでも当たり外れがある

引っかかっているのは、日々の管理ではありません。普通に育てているのに、ある日から様子がおかしくなる株が出る。しかもそれが、他の品種より高い確率で起きている気がします。水やりや温度といった日々の手間の話と、この「外れを引く確率」は、たぶん別の話です。

突然枯れた株

緑のタイプに、突然だめになった株がありました。2021年の秋にオークションで手に入れた株です。2章で書いたバリエーションのうち、胞子葉が細く紐のように長く垂れるタイプで、私はけっこう気に入っていました。

コルクに付けた P.'Mt. Lewis'。細い紐状の胞子葉が長く垂れ、上部に新しい貯水葉が出ている お迎えした頃。2021年9月

ある時から胞子葉がポロポロと取れはじめて、新しく出てくる胞子葉も貧弱なものばかり。そのまま持ち直さずに枯れてしまいました。心当たりのある管理ミスはなく、原因は分かっていません。

貯水葉が出なくなった白いタイプ

白いタイプのほうは、枯れ方が違いました。

ある時期からまったく貯水葉が出なくなり、胞子葉しか出さなくなりました。貯水葉が出ないと成長点が水苔の外に露出したままになるので、首折れしやすくなります。実際、首折れ寸前まで行きました。

貯水葉が出なくなったという話は、他の方からも聞いたことがあります。私のところだけの現象ではないようです。

貯水葉が出ず成長点が露出し、首折れしかけている白いタイプの株 貯水葉が出ず、首折れしかけていた頃

子株を取って仕切り直したりもしたのですが、貯水葉が出るようにはならず、最後は見切りをつけました。

貯水葉がうまく展開しない時の対処法

ビカクシダの首折れ対策|貯水葉2枚でできる借り貯水葉の作り方

私なのか、環境なのか、株なのか

同じ品種名で買った株が、片方は枯れて、片方は何事もなく大きくなる。私の育て方なのか、環境なのか、株なのか。どれもありうる、というところで止まっています。

ただ、1株だめだったからといって、品種が弱いという話にはなりません。2年でしっかり大きくなってくれた株もありました。次の章がその記録です。


06
Chapter Six 記録

成長記録|2年でここまで来ました

5章は落とした株の話でした。ここは、うまくいったほうの記録です。5章の2株とは別の、一番長く手元にいた緑の株になります。

2022年3月から2024年2月まで、およそ2年ぶんを並べます。

お迎え直後の P.'Mt. Lewis'。コルクに付けられ、胞子葉が数枚だけの小さな株 2022年3月。お迎えした時

2022年7月の P.'Mt. Lewis'。額縁の中に掛けた板から、細く切れ込んだ深緑の胞子葉が放射状に広がって垂れている 2022年7月

2022年11月の P.'Mt. Lewis'。壁に掛けた板から細く切れ込んだ胞子葉が下垂し、株元の貯水葉が茶色くなっている 2022年11月

1年後の P.'Mt. Lewis'。胞子葉が細かく分岐して大きく広がっている 2023年3月

2023年7月の P.'Mt. Lewis'。室内の壁に掛かり、茶色く立ち上がった貯水葉の下から胞子葉が放射状に広がっている 2023年7月

2年後の P.'Mt. Lewis'。上へ広がった貯水葉の下から、深緑の胞子葉が横へ伸びて先端が少し垂れている 2024年2月

成長は、私の環境では遅いほうでした。遅い順に並べると、P.veitchii → P.'Mt. Lewis' → P.willinckii、という体感です。あくまで感覚なので、環境が変われば順番も変わると思います。

遅めとは書きましたが、2年でここまでは来ます。


07
Chapter Seven 交配

マウントルイスから生まれた交配種

ここまでが、私の手元にいた株の話です。

マウントルイスにはもうひとつ、交配親としての顔があります。かなりよく使われています。

P.Rydeen(ライディーン) — P.veitchii の 'Wild Australia' とマウントルイスの胞子を混ぜて交雑させた、胞子培養株からの選抜品種です。胞子葉の分岐が細かく、大きく下垂します。うちにもいます。

P.Rydeen(ライディーン)。細かく分岐した胞子葉が大きく下垂し、上部に橙色の貯水葉が立ち上がっている うちの P.Rydeen

ほかにも、P.Tenten(テンテン)、P.Maserati(マセラティ)、P.Meteor Shower(メテオシャワー)、P.Kiyohime(キヨヒメ)といった顔ぶれがいます。

こうして並べていて思うのは、マウントルイスが入った交配は、いいものが出てきやすいような気がする、ということです。あくまで個人的な感想です。

親が分かっているものでいうと、掛け合わせの相手は P.veitchii、P.willinckii、P.hillii が多いです。この3つはどれも、1982年の分類では P.bifurcatum の下に入っていた顔ぶれでした。veitchii と willinckii は亜種、hillii はさらにその下の変種、という違いはありました。

1章で書いたとおり、この4種はDNAでもひとつのまとまりでした。交配相手がこの顔ぶれに偏っているのは、たまたまではなく、一番近い仲間どうしを掛けているからなのだと思っています。


08
Chapter Eight 結び

まとめ

  • 19種目ではありません。 P.bifurcatum の変異です。名札の種名は P. bifurcatum 'Mt. Lewis' に直せます
  • 一時期、P.willinckii の名前が付いていました。 当時は P.willinckii 自体が P.bifurcatum の亜種で、ウィリンキーに見えた理由は貯水葉でした
  • 手はかかりません。 貯水葉は勝手に開き、胞子葉も誘引なしで左右対称に広がります
  • ただ、普通に育てているのに、ある日から様子がおかしくなる株が出ます。 私は2株落としました。その一方で、2年でしっかり大きくなった株もいます。この差が私なのか、環境なのか、株なのかは、分からないままです
09
Chapter Nine 出典

参考文献・出典

  • Hoshizaki, B.J. & Yansura, D.G. (2021) "The Platycerium Variant from Mount Lewis, Australia" American Fern Journal 111(1): 24-34
  • Hughes, R.H. (1987) "A new variety of Platycerium bifurcatum (Cav.) C. Chr. ssp. willinckii (T. Moore) Hennipman & Roos" Pteridologist 1(4): 157-158(英国シダ協会の会報)
  • Hughes, R.H. (1989) "A new variety of Platycerium bifurcatum subsp. willinckii" LAIFS Fern Journal 16: 74-75(ロサンゼルス国際シダ協会の会報)
  • Hughes, R.H. (1984) "Platycerium bifurcatum in the Wild and in Cultivation" Fiddlehead Forum 11(4): 17-21(American Fern Society 会報)
  • Hennipman, E. & Roos, M.C. (1982) "A monograph of the fern genus Platycerium (Polypodiaceae)" Verhandelingen der Koninklijke Nederlandse Akademie van Wetenschappen, Afd. Natuurkunde Series 2, 80: 1-126
  • 『Platycerium』(タイ語・英語併記、編著 Patra Sangdanuch/PatraBooks/2023年)
  • 『NHK趣味の園芸 ビカクシダ』p.18-33(原種18種の紹介ページ/サイズ・温度域・胞子葉の向き・栽培難易度)、p.46-47(マウント・ルイスとライディーンの記述)
  • 『ビカクシダ2』(スモーキーウッド)p.75、p.86-87、p.93、p.94-95
  • IPNI(International Plant Names Index)
  • POWO(Plants of the World Online、キュー王立植物園)
  • 自生地写真:Creek flowing through Mount Lewis National Park (Queensland, Australia) — Hugo Innes / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0